アジア地域のLCCが持つ、独特のワイドボディ機への期待

近年、アジア太平洋地域では、LCCが中長距離路線にワイドボディ機を採用する動きが顕著に増加しており、この傾向は衰えを見せていません。これは、多くの航空会社が新規参入やフリートの拡張を進めていることによります。

OAGのデータによると、同地域のLCCは合計116機のワイドボディ機を運航しており、これはパンデミック前の水準から10%増加し、世界のLCCが運用するワイドボディ機の4分の3を占めています。他地域の例を挙げると、ヨーロッパのLCCが運航するワイドボディ機はわずか17機、中南米は11機、北米は7機、中東は3機に過ぎません。

ANAは、1990年代に設立され、チャーター路線を中心に運航してきたエアージャパンを子会社化し、機材をボーイング787-8で統一したLCCに移行させ、この事業モデルを採用した最新の事例となりました。エアージャパンは、2月からバンコクとソウルへの中長距離LCC路線を開設し、機材の増加に伴って就航都市を拡大する予定です。

同社の峯口秀喜 社長兼CEOは「成田発着のアジア路線から始め、アジア全域へのANA便の運航を継続しながら、徐々にエアージャパンブランドを他の地域に拡大していく計画です」と述べています。

これから数年は、東南アジアおよびオセアニアの都市に焦点を当てる計画とみられます。

ANA出身で30年以上の経験を持つ峯口氏は、新会社は「グローバルな旅行嗜好の変化」に対応し、2030年までに外国人観光客を6,000万人誘致するという日本政府の目標と合致していると説明しました。パンデミック以降、円安により日本からのアウトバウンド需要の回復は鈍化していますが、インバウンド客は2019年の水準を上回り、2023年10月には国際線入国者数が月250万人に達しました。

また、エアージャパンのLCC化は、JALの子会社であるジップエアブランドとの競争力強化にもつながります。ジップエアは4年ほど前に就航し、8機のボーイング787-8型機を使って事業を拡大しています。パンデミックの影響により、2020年6月に貨物専用便からの運航となりましたが、4ヶ月後には旅客便の運航を開始。以来、成田空港を拠点に、ロサンゼルスやサンフランシスコを含む8都市へネットワークを拡大し、3月にはカナダ西海岸のバンクーバーへの就航を予定しています。

JALのこの取り組みは、これまでのところ成功を収めています。2023年9月期のジップエアの月間旅客数は10万人を超え、前年比172%増となりました。JALグループは、この成長を堅調なインバウンド需要に起因するものとし、ジップエアが本体のJAL路線とは異なる顧客層を獲得していることを指摘しました。

ネットワークの拡大

エアージャパンやジップエアといった新会社だけでなく、アジア太平洋地域の他のLCC各社もワイドボディ機を導入し、フリートの多様化を始めています。その一例がベトナムのベトジェットで、2021年末に初のエアバスA330-300を受領しました。80機以上のA320ファミリーに加え、250機以上のエアバスおよびボーイングのナローボディ機を発注している同社は、現在7機のA330を保有しており、これによりネットワークをオーストラリアにまで拡大しました。ベトジェットは、A330を用いてホーチミンからブリスベン、メルボルン、シドニーへの直行便を運航しているほか、インドの首都ニューデリーへも運航しています

同社ディレクター・Chu Viet Cuong氏は、ワイドボディ機の導入によりビジネスモデルが複雑化したものの、さらに3~4機のワイドボディ機(A330neoの可能性)を導入し、カリフォルニアなどアメリカ西海岸の新たな目的地への就航を実現したいと述べました。

「私たちがここからさらに成長し、古い機材の更新を進めるためには、もっともっと多くの機材が必要なのです」と同氏は指摘し、ワイドボディ機の投入によってナローボディ機の航続距離を超える新市場への参入が可能になると述べました。

韓国2番手のLCCであるティーウェイ航空も、2022年3月にワイドボディ機の運航を開始しました。当初は同社初のA330-300を、世界で最も旅客数の多い国内線区間である、ソウル・金浦と済州島間の短距離路線(280マイル、243海里)に投入。その後、ソウル・仁川からバンコク・スワンナプーム、シンガポール・チャンギへの路線に就航し、2022年12月には初の長距離路線となるシドニー便の運航を開始しました。

鄭鴻根(チョン・ホングン)CEOは、A330の導入により、2023年は同社にとって過去最高の年になったと述べました。日本の千歳や大阪といった市場への拡大が促進されたほか、モンゴルの首都ウランバートルなどの都市への供給と季節需要のマッチングが改善。さらに、同社の貨物取扱量は2022年の6,675トンから2023年には15,000トンに増加し、収益の拡大につながりました。

ティーウェイ航空は現在、A330を3機、737-800を25機、737 MAX 8を2機、計30機の機材を保有しています。今年はさらに7機が納入される予定で、その中にはさらなるワイドボディ機が含まれるとみられています。鄭CEOは「成長の芽が力強く育っている」と述べ、欧米路線への就航を検討していることも示唆しました。

コンサルティングを手がけるASM社のコンサルタント、Hang Zhao氏は、大韓航空とアシアナ航空の合併の遅れなど、一部の国のフルサービスキャリアが直面する課題が、ティーウェイ航空のようなオペレーターに中長距離路線を検討する自信を与えていると指摘しました。

また、今年はインディゴ航空がワイドボディ機への野心を明らかにする年になるかもしれません。インド最大の航空会社である同社は、2023年2月に初のボーイング777-300ERをターキッシュ・エアラインズからウェットリースで導入し、その後さらに3機を追加。デリーとムンバイからイスタンブールへの路線に投入しています。しかし、787ファミリーとA330neoが候補とされる、約25機のワイドボディ機を発注する計画は未だ実現していません。

マレーシアのキャピタルA(旧エアアジアグループ)も、マルチハブネットワークを構築する計画の一環として、エアバス社と新たなワイドボディ機の発注について協議中と噂されています。同社の長距離運航会社であるエアアジアXは、LCCグループが新たな機材とネットワーク拡張計画を策定する中で、キャピタルAからエアアジアの短距離運航事業の運航許可をすべて取得し、単一の事業体に統合する予定です。これにより、AirAsia Berhad(エアアジア マレーシア)とAirAsia Aviation Group Limited(タイ、インドネシア、フィリピン、カンボジアのエアアジア子会社)がエアアジアXと合併し、エアアジアXブランドは混成フリートを保有する航空会社グループに生まれ変わります。

一方、フィリピンのLCCであるセブパシフィック航空は、老朽化したA330-300の代替として、引き続きA330neoが納入される予定です。同様に、シンガポール航空の子会社であるスクートも、今後数年で納入予定の787を3機発注しています。

このように、ナローボディ機がアジア太平洋地域のLCCの主力である状況は変わらないものの、同地域の航空会社はフリートの多様化によるメリットを認識し始めています。各社は、柔軟性の向上、大容量化、就航範囲の拡大への意欲に加え、貨物輸送能力の強化に重点を置いていることから、アジア太平洋地域のLCCにおけるワイドボディ機の採用は今後も拡大していくことでしょう。